歯周疾患の予防 |
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1.歯周疾患の定義
歯周疾患は歯周組織に原発して組織が病的な状態に陥ったもので,その結果歯周組織としての機能が何らかの障害を受けている状態をいう。歯周疾患のほとんどは,炎症性疾患であり,大別して炎症性の歯肉炎と歯周炎および外傷性の原因による咬合性外傷の二つに分けられる。日本歯科医師会の歯周病の診断と治療のガイドライン(1996年)によれば歯肉炎は歯肉にのみ炎症病変が生じたもので,歯周炎の前段階といえるものである。これに対し,歯周炎は歯肉に初発した炎症が,歯根膜や歯槽骨など深部歯周組織に及んだものでるとしている。また,強い咬合力によって引き起こされた咬合性外傷も歯周疾患に含まれている。
2.歯周疾患の診断
などである。単純性歯肉炎は局所的因子であるプラークにより炎症が生じたもので,全身性因子が関与しないと考えられるものである.複雑性歯肉炎はプラーク以外の局所的ならびに全身的因子,たとえば,ロ呼吸,妊娠などの影響を受けているものである。成人性歯周炎は基本的にはプラークに起因する歯肉炎が進行して歯根膜,歯槽骨に病変が及んだものである。急性歯周炎はプラークのなかでも特定の歯周病関連菌の強い修飾や全身的因子の修飾を受けている場合である。このうち,若年性歯周炎あるいは思春期性歯周炎は思春期頃に発症し病状が急速に進行する。急性歯周炎は20〜30歳頃に急速な進行を示す歯周炎で,咬合性外傷を併発していることが多い。 咬合性外傷は異常な咬合力により非炎症性に歯根膜や歯槽骨に変性病変が起きたものである。
3.歯周疾患の分類
○歯肉炎
○歯周炎
<慢性歯周炎>
<急速性歯周炎>
4.歯周疾患の原因
上記したように,歯周疾患の原因は炎症性のものと外傷性のものがある。このうち,炎症性のものは大半が歯の汚れである。いわゆるプラークが原因としてあげられる。予防の第一歩は原因除去であるので,このプラークを如何に少なくするかがキーとなる。家庭における歯ブラシ習慣,口腔衛生の意識が高く保たれるのが必須である。テレビのCMにプラークコントロールが大切と考えている歯科医が97%とか言っていたが,プラークコントロールが大切であることは予防歯科学的にも事実である。日本においては,男女とも大学を卒業したころから28〜30歳ころまでがお口の中が最もきれいなようだ。女性も男性もいわゆる結婚適齢期が最もきれいと言える。 最近は,歯ブラシに加えて歯間ブラシやデンタルフロス(糸楊枝)を使ってはブラシを指導していることが多い。歯と歯の間は,通常の歯ブラシではとても磨けるものではないので,このような補助的な方法が利用されている。 この他に,歯に汚れがたまりやすい状態も問題となる。たとえば歯並びの悪い人では,歯周疾患の進行が早く,口呼吸の人や歯に食物が挟まりやすい人,歯軋りをする人も要注意である。いずれにしてもこれらの原因は自分ひとりでは判定しにくいものばかりである。一度専門家に相談するのが良いであろう。
5.歯周疾患の予防
○全身的予防
歯周疾患を増悪させるような全身的疾患の治療。たとえば糖尿病体質の人などでは感染しやすく歯周疾患も悪くなりやすい。このような人では,全身疾患の治療が優先する。
○局所的予防
歯ブラシの方法が正しいのか一度専門家に指導してもらうのが良い。思いがけないところに歯の汚れがついていたり,歯ブラシできずにいたりするところがある。デンタルフロスの使い方などは意外に難しい。 歯石の除去;定期的に歯石を除去してもらうのが良い。速い人では1〜2ヶ月で歯石が溜まってしまうこともある。歯石は歯の汚れをそこに停滞させるので,歯肉のためには良くないものである。 咬合の調整,回復 歯のかみ合わせは,先ほどの咬合性外傷としての問題もあるが,同時に顎の関節に問題を起こしたり,口呼吸を起こしたりする。口呼吸は口腔内を乾燥させ感染を起こしやすくしたりするので良くない。歯の矯正治療をするまでもないが,咬合の調整をすることは日常臨床では良くある。ちょっとしたチェックで異常な咬合を見つけることもある。気になる人は一度歯医者さんで相談してみよう。
歯ブラシは日常の歯科保健行動の第一歩であります。日本人の歯の寿命を考えるともっともっと徹底してほしい衛生習慣であると思われます。「入れ歯がくさいと孫に言われた。」といって来院された人もいます。入れ歯になってから掃除では実は遅いのです。お口は人と外界の通路です。食事だけでなく大切な言葉もここから発せられます。ぜひきれいに保って,歯の病気と歯周疾患の予防に心がけてください。
6.参考文献
(資料提供:小野澤 裕彦・助教授 明海大学歯学部口腔衛生学講座・〒350−0283・埼玉県坂戸市けやき台1−1)